羽田空港の裏側へ ─ JAL × はとバスが見せてくれた特別な一日
[ 公開日: 2025/11/24 ]
🛫 ✏️《はじめに》
連休最終日の朝、東京駅に停まる黄色い二階建てバス——
今日は、普段なら選ばない“団体ツアー”に参加している。
理由はひとつ。
JAL × はとバス の特別コラボ。“羽田空港の裏側”に踏み込めるツアーだからだ。
機内食、整備工場、ミュージアム、そして滑走路近くの特別エリア。
空港の表と裏を一日でめぐる企画は、
そうそう参加できるものではない。
はとバスがゆっくりと東京駅を走り出すと、
“今日は長い一日になる”という確かな気配がした。

🛩️ ✏️ 第1章:JAL SKY MUSEUM
羽田空港の整備地区に立つ JAL SKY MUSEUM。
数か月先まで予約で埋まることも多い人気施設で、
私自身も今回のツアー参加で ようやく初めて訪れることができた 場所だ。

館内に足を踏み入れた瞬間、
ふだんの空港とは違う“静かな熱”がふわりと伝わってくる。
歴代制服、航空機の部品、JALの歩みを示すパネル──
どれもが、この会社が空を支えてきた時間を物語っていた。

今日の特別体験のひとつ、制服撮影。
パイロットジャケットに袖を通すと、自然と背筋が伸びる。
展示機の前でシャッターを切ると、
どこか照れくさく、それでいて妙に嬉しい一枚になった。


ミュージアムショップには、機体パーツを再生したグッズも並ぶ。
とくに737の部品を使ったスマホスタンドは心をわしづかみにされ、
気づけばここでしか買えない限定品をいろいろと買っていた。

SKY MUSEUMは航空の“表舞台”を紹介する場所だが、
その奥には、整備工場・滑走路へと続く
“裏側の入口”の気配が確かにあった。
時計を見ると、まだ午前。
だが私はすでに、
「今日はきっと忘れられない一日になる」
そう静かに確信していた。
🔧 ✏️ 第2章:整備工場──飛行機の真下に立つ時間
ミュージアムをあとにし、赤いヘルメットを手渡された瞬間、
“これからが本当の裏側だ”と気持ちが切り替わった。
案内された整備工場は、空港の中でも限られた人しか入れない、
飛行機の“真下”に立てる稀有な場所である。
広大な格納庫の中央には、
堂々と JAL Boeing 777 が静かに佇んでいた。
すでに退役が進む中、
“この姿を現役のまま見られる機会はあとどれほど残るのだろう”
そう思わずにはいられない景色だった。
しかもこの777は、
ほんの数分前に整備工場へ入ってきたばかり。
これはもう“運”としか言いようがない。

機体の真下に立つと、
金属のひんやりとした気配と、油のわずかな香りが混じり、
静止しているのに、まるで巨大な生き物が息をしているようだった。
開かれたエンジンの奥には、
ぎっしりと詰まったパイプと配線、精密なブレード、一つひとつの金属の肌理。
長距離国際線を支えてきた“心臓部”がそのまま露わになり、
ただ見入るしかなかった。


案内してくれたJALスタッフの方は、
驚くほど丁寧に、そして楽しそうに説明をしてくれた。
「このエンジンは……」
「この機種は……」
専門的な話をやわらかく噛み砕き、
時折ユーモアも交えながら語る姿に、
“飛行機が好きでたまらない人の温度” を強く感じた。

触れることはできない。
しかし、触れなくても伝わるものが確かにある。
整備士たちの眼差し、工具が整然と並ぶ秩序。
格納庫を出る前、ふと振り返った。
淡い光の中で静かに佇む777の姿は、
まるで“空の仕事そのもの”の象徴のように見えた。
整備工場でJALという会社の“魂”に触れることができた。
🍽️ ✏️ 第3章:国際線ビジネスクラス機内食ランチ
整備工場の興奮がまだ残る中、
案内されたのはJAL国際線機内食の試食会場——
新しい機内食の社内チェックにも使われる特別な場所だった。
この日のランチは、国際線ビジネスクラス用の洋食。
前菜が、
海老とズッキーニのソテー、鴨ロースト、きのことベーコンのキッシュ
そしてメインは 黒毛和牛と黒豚のハンバーグ。
柔らかく、香ばしいソースがまとまりよく、
“空でも味が立つようにしっかり作られている”ことが自然に伝わってくる。

整備区域に近い静かな会場でいただく洋食は、
旅の流れにちょうど合う落ち着いた時間になった。
参加者の表情も柔らかく、
午前の密度が高かっただけに、
ここでひと息つけたのがありがたかった。
🛃 ✏️ 第4章:制限区域内ドライブ ── 厳重な保安を越えて、非日常の風景へ
洋食ランチを終えると、空気が一段引き締まった。
ここから先は、羽田空港の“仕事場そのもの”に踏み込む時間だ。
まずはスタッフから説明。
「このあと制限エリアに入ります。誓約書を・・・」
その一言で、場の空気が変わる。
🔸 ① 誓約書と持ち物制限
参加者全員が誓約書にサインし、
持ち込み物は“許可された最小限”に。
配られた透明バッグに必要なものだけを入れ替える。
🔸 ② 身分証の提示と専用IDカード
身分証を提示すると、
制限区域専用のIDカードが渡された。
首から下げるだけのシンプルな札だが、
「裏側に入る資格」を象徴しているように見えた。
🔸 ③ 二重のセキュリティチェック
バス乗車前と空港ゲート前で、2度の保安検査。
スマホやカメラは体に固定するのが義務。
観光ではなく、完全に“空港業務の領域”に入る瞬間だった。
🔸 ④ 観光バスでは通らない道へ
ゲートが開くと、はとバスは静かに制限区域へ。
景色が一変する。
第二 → 第一 → 第三ターミナルのすぐ横を、
観光バスがそのまま走り抜けていく。
翼、エンジン、ボーディングブリッジ、
プッシュバックする機体……
いつもはガラス越しに眺める光景が、
今日は手を伸ばせば届きそうだった。

🔸 ⑤ A滑走路の端へ向かう静かな時間
A滑走路の横をバスは走った。
すぐ真横に飛行機が次々と着陸していく。
通常みることができない光景だった。

🌇 ✏️ 第5章:A滑走路での夕陽と着陸ラッシュ ── 夕陽と着陸機が交差する、羽田の黄金時間
「まもなくA滑走路の端に着きます。
ここで下車して撮影ができます。」
ガイドさんの声が落ち着いて響き、
その直後、バスの空気がふっと静まった。
誰もが心のなかで、
“ここが今日のクライマックスだ”と気づいている。
🟥 ① バスのドアが開くと、羽田の懐に降り立ったような空気が流れ込む
バスを降りると、
風の質が明らかに変わった。
ターミナルの観光デッキから感じる風ではない。
もっと“地面に近い風”、
着陸機の残響をそのまま運んでくる風だ。
視界には多摩川の河口と滑走路に続く誘導灯が広がっている。
その向こうには、
淡く沈みはじめた夕陽がゆるやかに海面を染めていた。
🟥② そして、機影が現れる。
最初の一機の機影が遠くに見えた。
向こうからこちらへ、
ゆっくり、しかし確実に近づいてくる。
徐々に機影が大きくなり、
参加者全員が自然とカメラやスマホを構えた。
あっという間に目の前を通り過ぎ、着陸していった。

🟥 ③ 着陸の連続。おそらく15機以上。
夕陽のオレンジが、機体の銀色を包む。
夕方の羽田空港。飛行機は次から次へと着陸する。
常に二機は見えている。
ANA、JAL、SKYMARK、海外エアライン。
A350、B787、B777、B767、B737、……
さまざまな機体が夕陽の中で影絵のように滑っていく。
夕陽がちょうど水平線に近づいたタイミングで降りてきたJAL機。
太陽のオレンジが翼のラインを縁取り、
機体の影が長く地面へ伸びていく。

写真が逆光で難しいと思っていたのに、
最後の10分は奇跡のゴールデンタイムだった。
そう思える光景だった。

🟥 ④ 観光でもなく、飛行訓練でもない。
“羽田の呼吸そのもの”を見ていた時間。
ここに立っていると、
羽田空港が決して止まらない“生き物”のように感じられる。
プッシュバックされる機体。
誘導路に向かう影。
滑走路をゆっくりと離れていく赤いテールライト。
どれも特別に見せてもらっているのではなく、
羽田空港が日常として続けている“仕事”の流れの一部だ。
それを自分たちが、フェンスの内側で浴びている——
この稀有な体験が、胸にずっと残った。

🟥 ⑤ そして、夕陽の最後の瞬間に降りてきた一機。
今日の象徴だった。
太陽が地平線に触れようとする瞬間、
最後に降りてきた一機があった。
逆光の中で、
機体の姿が金色に浮かび上がり、
影だけがゆっくりと地面へ伸びていく。
あの光と音と空気。
あの“わずか数秒の静けさ”。
今日一日の体験すべてが、
この機影の中に凝縮されていたように感じた。

🟥 ⑥ バスへ戻るころには、羽田は夜の装いへ。
バスに戻ると、
窓の外に誘導灯が静かに灯りはじめていた。
空港が昼から夜へと移り変わる時刻は、
どこか儚さと美しさが混じり合う。
A滑走路で過ごした時間は、
今日の旅の絶対的クライマックスだったと
静かに実感していた。
🍵 ✏️ 第6章:和食料理長と抹茶プリン ── 空の味を支える“出汁”の哲学
A滑走路での着陸ラッシュを堪能し、
黄金色の空が紺へと溶けていくころ、
バスは再び空港外の機内食ランチを試食した会場へと戻っていた。
落ち着いた空気に触れると、
さきほどまでの興奮がすっと穏やかに整っていく。
席に着くと、
韓国→日本線ビジネスクラスで提供される抹茶プリンが配られた。
甘さ控えめ、とろりとした口当たり。
空でも地上でも成立する“万能スイーツ”だと感じる。

そして、ここからがもう一つのハイライト。
和食部門を統括する料理長が前に立ち、
静かに、しかし迷いのない口調で語り始めた。
「和食は“出汁”です。ここが一番大事です。」
乾燥した機内。
気圧差で鈍る味覚。
その環境下でも味を成立させるために、
鰹節の量は他社とは比べものにならないほど多い という。
淡々としながらも、言葉には強い誇りが滲む。
そして——
「上皇様(当時 天皇陛下)のご搭乗時、
私たちが機内食を担当しました。」
部屋の空気が一段深まった。
皇室に出す食事も、ふだんの乗客と変わらない姿勢でつくる。
その“当たり前”を守り続けていることに、
JALという会社の品格を感じた。
🌙 ✏️ 終章:東京駅へ ── 濃密な一日の終わりに
デザートの甘味を残したまま、
バスはそっとエンジンをかけ、夜の羽田を離れた。
制限区域の灯が遠ざかり、
空港の光がゆっくりと車窓に流れていく。
午前のミュージアム、
整備工場で見た777、
洋食ランチ、
厳重な保安検査、
ターミナルの真横を走るドライブ、
そして夕陽のA滑走路。
一つひとつの場面が濃く、
まるで“羽田空港というひとつの都市”の呼吸を
一日かけて辿ったような旅だった。
「これは、人生でそう何度も出会えないツアーだった。」
普段は団体ツアーに縁のない自分でも、
この企画だけは例外だった。
JALも、はとバスも、
本気で“裏側を見せる旅”をつくってくれたのだと分かる。
そして私はまた、
旅の記録をまとめる楽しみを胸に、
東京駅でバスを降りた。
