【院長の休日・奥出雲の旅】第4話🌾静かな駅から始まる木次線の朝
[ 公開日: 2025/8/11 ]
2025年7月21日(月・祝)、海の日。
連休の最終日、奥出雲の朝は、静かで、けれど心に残る温かさから始まりました。
この日乗るべき列車は、7:17発の備後落合行き。
通常ダイヤでは次は5時間以上後になり、それではこの日の予定が大きく崩れてしまいます。
しかも猛暑による日中の運休が続く木次線では、この列車すら走らない可能性がありました。
乗り遅れは許されない朝です。
早朝6時半、宿である「奥出雲多根自然博物館」では、特別に早い時間に朝食を用意してくださいました。
炊きたての仁多米コシヒカリが土鍋で湯気を立て、ふっくらと輝く粒がつややかに光っている。
そこへ新鮮な地元の卵を落とし、卵かけご飯に──それは、言葉を選ばず言えば、至福でした。
噛むたびに立ちのぼる米の甘み。これが「西の横綱」と称される米の実力かと深く納得しました。

(仁多米コシヒカリと地元産の生卵)

朝食後、宿の館長さんが、私を駅まで送るためにわざわざ朝早く車で迎えに来てくれた。
木次線の未来や地域の観光の可能性について、短い道のりの中で熱心に語ってくださいました。
出雲八代駅に到着すると、映画『砂の器』のロケ地としてのエピソードを話してくださり、出発前には駅舎の前で記念写真まで。
ホームで何度も手を振って見送ってくださる姿に、胸が熱くなります。
これこそ、旅の一番の贅沢かもしれません。


(途中、出雲横田駅からは1両となる)
2両編成のディーゼルカーには、高校生が数人。祝日ですが、部活や大会に向かうのでしょう。

出雲横田駅で彼らが降りると、後ろの車両は切り離され1両に。
そして、乗客は私ひとり──完全貸切状態となりました。
ここからが木次線最大のハイライト、三段式スイッチバックです。
列車は山の斜面を登るため、前進・後退・再び前進と、階段を上るようにジグザグに進みます。
カーブのたびに視界が開け、右に左に谷が入れ替わる。
深い森の緑、岩を流れる清流のきらめき──これぞ日本が誇る“秘境路線”の真骨頂です。

(来たのが右、これから進むのが左の線路)

日本最大級・二重ループ橋「奥出雲おろちループ」
窓の外に広がる風景は、スマートフォン越しではなく、目で見てこそ感じられる本物の迫力があります。
ディーゼルカーがエンジン音を響かせながら、まるで山を抱きしめるように進んでいくその姿は、どこか健気で、愛おしくさえ思えます。
そして9:07、列車は静かに備後落合駅に到着しました。
この駅は今でこそ人影まばらな無人駅ですが、かつては山陽と山陰を結ぶ鉄道の一大拠点。
芸備線・木次線の分岐駅として栄え、駅周辺には鉄道官舎が多数立ち並び、100人以上が住んでいたそうです。
現在はその面影をかすかに残すのみですが、「鉄道が町を支えていた時代」が確かにあったことを感じさせる静けさが漂っていました。

こうして秘境の旅の前編は終わり、いよいよ「必殺徐行」の芸備線へ。
さらに絶景ローカル線の旅は続きます。
第5話もお楽しみに。
🎥三段スイッチバック、動く車窓で体験できます
このように、木次線の三段スイッチバックは、まさに“秘境鉄道”の醍醐味が凝縮された瞬間でした。
第1話~第4話までの旅のハイライトを、60秒のダイジェスト動画にまとめました。短時間で振り返りたい方は、ぜひこちらもご覧ください。
🎥ここまでの旅を60秒でふり返り

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(予告)
●院長の休日・奥出雲の旅
第5話|時速25kmの鉄路をゆく芸備線
歴史ある、かつてはにぎわった駅構内を見学するが、5分の乗り換えなのであわただしい。
備後落合駅からは芸備線のディーゼルカーに乗り込む。
土砂崩れ対策のため制限速度25kmで走る、通称“必殺徐行”。
列車からの眺めや地域の現状を見つめつつ、三次駅へ向かう。
第6話(最終話)|広島で平和を想い、旅を締めくくる
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