院長ブログ

【院長の休日・奥出雲の旅】第5話🐢時速25kmの鉄路をゆく芸備線

[ 公開日: 2025/8/12 ]

備後落合駅に着くと、芸備線・三次(みよし)行きディーゼルカーがすでにホームで静かに待っていた。
1両きりの小さな車両が、朝の静けさに包まれた山あいの駅で、ひっそりとたたずんでいる。

芸備線──全国屈指の赤字ローカル線として知られ、廃止議論が絶えないこの路線には、
それでも“鉄道でしか味わえない時間”が、確かに残っている。

それを象徴するのが、最初の区間。
備後落合から次の比婆山(ひばやま)駅までは、わずか約5.6km。
ところが列車は、この短い区間を14分かけて走る。
ちなみに平成13年時点では所要時間8分だった。

所要時間がこれほど延びた背景には、「必殺徐行」と呼ばれる極端な速度制限がある。
線路沿いの崩れやすい斜面の補強に多額の費用をかけずに済ませるため、
この区間では意図的に制限速度を時速25km以下に設定している。

万一、土砂崩れや線路異常が起きても、低速であれば被害を最小限にできる──
そんな“消極的安全策”として、JR西日本の一部ローカル線で導入されている運行方式だ。

実際、ディーゼルカーの走りはまるで自転車並み。
走れば追いつけそうな速度で、列車はのろのろと山の中を進んでいく。

車窓には立派な高速道路が並走し、地元の足が鉄道ではないという現実が浮かび上がる。
それでも、このゆっくりとした時間の中でしか出会えない風景がある。

小さな集落、山の斜面の田んぼ、清流のせせらぎ──
どれも、今にも消えてしまいそうな静けさをたたえていた。

やがて、列車はのんびりと三次駅に到着。
久しぶりに大きな町に来た感じがして、ほっとする。

ここから私は、少しだけ寄り道をするつもりだ。
乗り換え列車を1本遅らせて、この町ならではの味と出会ってみたい。

  


   

【おまけ】🎥動画で見る 必殺徐行

🚃「必殺徐行」の様子は、動画で見ると一層リアルに伝わります。

▶️ 動画はこちら(YouTubeが開きます)

  


 

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(予告)

●院長の休日・奥出雲の旅
 第6話(最終話)|広島で平和を想い、旅を締めくくる
三次駅近くの人気店で、唐麺入りのお好み焼きとビールの昼食。
昭和の面影を残す朱色の旧型ディーゼルカーに乗り、広島へ。
旅の締めくくりに原爆ドームと平和記念公園を訪れ、深い静寂と歴史を感じる。
帰りの新幹線で旅を振り返り、「また旅に出たくなる──それが鉄道旅の魔力だ」と結ぶ余韻あるエンディング。

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