【台湾鉄道旅②】第2話💡鉄道ミッションと老舗台湾料理の至福
[ 公開日: 2026/1/7 ]
~台北駅で旅の土台を固め、昼は欣葉、夜は路地裏へ~
🚉 台北駅の朝は、まず「取れるものを取り切る」
旅の2日目。今日は台北の中心で、やるべきことを片づけ、見るべきものを見て、食べるべきものを食べる――そんな一日にする、と最初から決めていた。雨や寒さに振り回される前に、まず“旅の基盤”を固めておく。こういう日が、あとあと効いてくる。朝いちばんに向かったのは台北駅。目的は二つあった。
一つは、台湾版の新幹線にあたる高速鉄道(現地では「高鉄」)の窓口で、ネット予約しておいたパスの受け取り。今回使ったのは「外国人専用・高鉄&台鉄 特級5日ジョイントパス」で、クレジット決済は16,548円だった。台鉄は連続5日間乗り放題、高鉄はその5日間のうち任意の2日が乗り放題、という“旅人に都合の良い設計”だ。事前に利用日登録やパスポート番号の入力もあり、地味に手間はかかった。
――ただ、今あらためて見たら、このジョイントパスは「販売終了」になっていた。取れていた時点で、けっこう運が良かったのかもしれない。
もう一つが本題で、日本で言えばJR在来線にあたる「台湾鉄道」(現地では「台鉄」)で、座席指定を取り切ること。旅は気分で走る部分もあるが、席だけは別だ。「取れるときに取る」。鉄道好きの鉄則である。
スマホのメモを駅員さんに見せ、行き先と列車と座席を、一つずつ確認する。
狙いは“海側”の窓側。これが取れるかどうかで、同じ移動でも体験は別物になる。
ひと通りのやり取りを終えて、切符が手元に揃う。これだけで心が落ち着く。
台湾最大の駅・台北駅で、二つの会社を跨いで用事を片づけた瞬間、頭の中のノイズがすっと消えた。旅の「自由」は、準備を終えたあとにやってくる。私はやっと、今日を“楽しめる側”に戻ってきた。


🏛 中正紀念堂、静けさで頭が整う
次に向かったのは中正紀念堂。蒋介石(しょうかいせき)にゆかりのある施設で、広い広場を抜け、建物に近づくにつれて空気が変わる。観光地というより、どこか“式典の場所”だ。
衛兵交代式は、動きが極端に削ぎ落とされているのに、目が離せない。靴音が床を鳴らし、高い天井に反響する。無駄がない所作と、静けさの緊張感。
さっきまで台北駅で実務に追われていた頭が、ここでいったんリセットされる。旅の良さは、こういう「場の力」で人間のモードが切り替わる瞬間にある。

🍽 老舗台湾料理 欣葉で「静」に浸る
昼は、今日の主役。欣葉(しんいえ)台菜・信義A9店へ向かった。
年末年始の台北は、人気店の予約がとにかく取りにくい。欣葉も例外ではなく、ネット予約の枠はほぼ埋まっていた。そんな中で、この日程が取れたのはかなり幸運だったと思う。
本店はホテルの近くにあるのだが、そちらは予約が取れなかった。だから今回も信義へ。ここは【台湾鉄道旅①】第4話で訪れた店でもある。あのときの美味しさが忘れられず、再訪したかった。
信義という街も、少し触れておきたい。新光三越は台湾に多数あるデパートだが、信義エリアはその集積が圧倒的で、街そのものが“百貨店の密度”でできている。店に着く前から、景気の良い空気がある。台北101のすぐ近く、台北でいちばん都会の空気が濃い。
選んだのは、「精彩套餐(Splendid Set Menu)」。
ここから先は、料理というより“作品”だった。派手に盛り上がる贅沢ではなく、呼吸が整うタイプの贅沢。私はこれを、2,000台湾元(≒10,000円)の「静」と呼びたくなった。

最初の「精彩四喜」(前菜の盛り合わせ)から、いきなり完成度が高い。
香ばしいカラスミ、宜蘭産の鴨、軟糸(イカ)、塩水鶏。出だしから四方向から殴られる。上品なのに強い。
続く「鹽酥海明蝦」(大ぶりの海老の塩胡椒揚げ)は、衣のサクサク感の中に、海老の存在感がきちんと残る。食感が気持ちいい。

「樹子蒸龍虎斑片」(魚の蒸し物)は、蒸し物の静けさが贅沢だった。プリプリのハタ。派手さではなく、丁寧さで勝負してくる。

「紅焼海參蹄筋」(なまこと豚の腱の煮込み)は、粘りとコクが、やたらと真面目に美味い。

そしてメインの「海味佛跳牆(ぶっちょうしょう)」。その名の通り、あまりの芳香に修行中の僧侶さえも垣根を飛び越えて来ると言われる、中華の最高峰スープだ。 運ばれてきた器の中には、琥珀色のスープに抱かれた贅の極みが詰まっている。大粒のホタテに、ぷるんとした海参(なまこ)、さらにコラーゲンたっぷりの魚皮や滋味深いタロイモ……。 一口含めば、幾重にも重なった旨味の層が押し寄せ、こちらの思考を停止させる。名前負けどころか、中身がこれでもかと「大げさ」な、究極の逸品だった。

そして最後が「鮑魚炒飯」(鮑の炒飯)。高級食材・鮑が乗った炒飯を前にした時点で、「今日のランチは勝ち」と確定する。

さらに香りの良い烏龍茶と、名物の杏仁豆腐も追加。杏仁豆腐は、ただの“締めの甘味”ではなかった。モチモチの食感が妙に後を引き、コース全体の余韻を静かに整える。派手に盛り上がる贅沢ではなく、呼吸が整うタイプの贅沢。まさに「静」の極致だった。
🚨 市政府駅、緊急速報に足が止まる
次の目的地へ向かう途中、MRT・市政府(市役所前)駅で、思わぬ“事件”に遭遇した。最初は本気で焦った。
駅構内は人でごった返し、どこか落ち着かない空気が漂っている。スマホには「重大な災害が発生、速やかに避難を」といった緊急速報が英語と中国語で表示された。
――ただ、よく読むと「演練(訓練)」の文字。つまり本物ではなく、避難訓練だった。
現場にはスタッフの誘導も入り、模擬煙らしきものまで出ている。台湾は、有事への備えを“日常の顔”でやっている。あの緊張感と手際の良さは、正直うらやましいと思った。



🚂 国立台北博物館鉄道部、最後のジオラマで旅が立体になる
落ち着いたところで、国立台北博物館鉄道部へ。朝の台北駅と、この場所が一本の線でつながる。今日という日が、ただの「食べ歩き」ではなく、鉄道旅としての厚みを持ち始める。
赤レンガの建物に入ると、空気が変わる。そこに身を置くだけで、台湾の鉄道が歩んできた時間が立ち上がってくる。展示を追っていくうちに、今朝確保した「窓側の席」が、単なる移動手段ではなくなる。歴史を知ることで、これから乗る列車の手触りまで変わってくる。
最後に見たジオラマが、特に良かった。壮大なスケールで、見ごたえがある。
旅が少しだけ立体になる。鉄道の面白さは、こういう“奥行き”が突然出てくるところにある。


🏨 いったん戻れる拠点がある、という強さ
夕方はいったんホテルサンルート台北へ戻って休憩。7泊の強みは、こういう「戻れる拠点」があることだ。体力も気力も、ここで一段回復する。
観光は詰め込めば良いわけではない。一度戻って、落ち着いて、また出る。これができると、夜が楽しくなる。
🍲 路地裏の夕食、215台湾元(≒1,080円)の「動」
夜、再び外へ。
まずは市場でドライピーチを購入。こういうものは、買う理由より「見つけた瞬間の気分」が大事だと思う。
夕食は、路地裏の阿勳鹹粥。店名のとおり“お粥(かゆ)”が看板だが、夜の時間帯は一品ものも並び、軽く飲める雰囲気もあった。ただし私は軽い食事のみとする。
注文したのは、招牌海鮮粥 160台湾元(≒800円)と、燙青菜 50台湾元(≒250円)。青菜はサツマイモの葉だった。
海鮮粥は、エビやカキがしっかり入っていて、胃に優しいのに満足感がある。
この温度がありがたい。昼の「静」とは別の意味で、これは確実に“台北の現実”の味がする。
ここで、ちょっとした事件が起きた。無糖のお茶を頼んだら、なぜか半分しか入っていない開封済みのボトルが出てきたのだ。
戸惑うが、こういう“雑さ”も旅だと思うことにする。会計は合計215台湾元(≒1,080円)で、お茶は5台湾元(≒30円)だった。

🍇 その後の買い物、部屋で“プライベート夜市”
店を出てからも、夜はまだ終わらない。
デザートに秋翠。見た目も食味も、シャインマスカット系に近い。しかも日本よりだいぶ手が届きやすい価格で、思わず買ってしまう。
最後にタピオカミルクティーも確保する。旅先の夜は、なぜかタピオカが“締め”として成立してしまう。
ホテルの部屋に戻り、買ってきたものを並べて、ひとりで“プライベート夜市”を開く。
朝は鉄道で頭を使い、昼は「静」に浸り、夜は路地裏の小さな「動」と甘さで終える。
派手ではないのに、密度がある。台北の2日目は、そういう一日だった。

明日はいよいよ台中へ向かう。今日、手元に揃えた切符がある。今日、鉄道の歴史に触れた実感がある。同じ移動でも、きっと明日は、見える景色が少し違う。
